戦後初。北斎の春画を当時の技法で完全復刻

世界限定500セット

北斎春画復刻~企画背景~

19世紀、フランスを中心にヨーロッパに巻き起こったジャポニスム(日本趣味)を
きっかけにゴッホ、モネ、ロートレックなど当時のヨーロッパの印象派の画家たちに多大なる影響を与えた浮世絵。
今まで見たこともない克明な日本の生活風俗の描写に彼らは驚愕しました。
浮世絵は肉筆と木版画を共有する独自の文化を持ちますが、特に木版画において、他に類を見ない
多色摺など、その技術を進化させていきます。
印象派の画家たちも肉筆ではなく、木版画の芸術技法に大いなる興味を抱いたと言われています。

絵師・彫師・摺師の三位一体の協力体制から生まれる伝統文化・技術の結晶である浮世絵木版画の中でも
彫師・摺師の技術に非常に繊細で高度なものが求められるのが「春画」です。
我々は現在、大きな課題となっている彫・摺の技法・技術の継承に向け、
「春画」の復刻に取り組んでいます。
そして、この21世紀に浮世絵木版画を世界的芸術運動・ジャポニスムとして
再燃させ、今一度、世界にその素晴らしさを発信してまいりたいと思います。

監修

浮世絵の彫と摺の技術を継承し、その復刻と新しい版画に挑戦してをられる版元の版三さんが、この度北斎の春画の復刻を試みられるといふ。浮世絵春画には毛彫だけでなく、空摺や極出、正面摺といった木版技術の粋が籠められてゐるが、北斎の春画はその著想といひ絵柄といひ、いづれも新奇で挑戦的である。この度の版三さんの試みが、北斎の春画に挑戰して彫と摺において伝統的な技術を駆使して、現代の新しい北斎春画を生み出されることを期待する。

国際日本文化研究センター名誉教授 早川聞多

作品紹介

喜能会之故真通(春本三冊本) 下 第4図

ジヤポニスム期にもつとも広く知られ模倣された春画。欧米では「悪魔の使徒であるオクトパス(蛸)が若い全裸の海女を犯してゐる図柄は、死の恐怖とエロスの快感の併存」といはれ、驚嘆の図柄と解された。しかし書入れを読むと、普段から綺麗な女と見込んで狙つてゐた蛸がやうやく絡むことができて満足してをり、一方海女の方は普段から男たちから「蛸開」(たこつび:
よく吸ひ付く女陰の最上の名器)と呼ばれてゐたのに、今日は本物の蛸に負けて行かされて参つてゐるといふ笑ひが要点。書入れには北斎独特の擬音語・擬態語のオンパレードである。

つひの雛形(十二枚組物) 第4図

北斎らしく春画の内に小動物をうまく誂えた「笑絵」。図柄は仲の良い夫婦が夏の夜の一儀の後にお互ひ微睡んでゐる図であるが、書入れは枕元に描かれた猫が、夫婦の一儀の一部始終を実況報告してゐる。最後に人間の交はりに誘はれた鼠の番(つがひ)を見付けて、いつもなら喰つてやるが「今日は見逃してやるのが通といふもの」と北斎らしい落ちとなつてゐる。なほ団扇の川柳には「弁慶と小町は馬鹿だなあ・・・かかア右柳樽」とある。

富久寿楚宇(十二枚組物) 第12図

北斎らしく庶民の性風俗を穿つた春画である。女は腹帯をしてゐるから身重と知れ、男は腹の子を気遣つて背後からそつと挑み、女の上半身を仰のけて乳を吸つてゐる。女は「アレサくすぐつてへ(え)、よしなゝ」と言つてゐるが、男は「乳を飲むのも、飲ませ慣らつておくがいいと思つてのことさ」とうそぶいてゐる。二人はおそらく安定期に入つた初産の夫婦であらう。

江戸より継承される職人による、卓越した技術

人間国宝の和紙

人間国宝・岩野市兵衛氏が漉く最高級の越前生漉奉書を使用しています。 越前和紙のなかでも生漉奉書の漉元は全国に三軒ほどしかありません。 越前(福井県)生漉奉書は1500年あまりの歴史を持ち、古くからその高い品質が評価され公文書として使われていました。 現代でもその越前生漉奉書は、伝統技法を守り気の遠くなるような工程を経てひとつひとつ手作業により作られています。 300回の摺り重ねにも耐えられるとして多くの版画家に支持されており、かのピカソもこの奉書を使用していたと言われています。

江戸より引継ぐ、伝統の彫り

浮世絵木版画には、山櫻の一枚板が使われます。桜材は木目が細かく耐久性に優れており、木版画には最適の素材だからです。 初めに手前に傾斜した机に布をひき、版木を固定します。そして版木の表面に、薄い和紙に写された版下絵を裏返しに貼り付け、透けて見える墨線に沿って彫刻刀で切り込みをつけながら彫り上げていきます。細密な彫刻には、彫刻刀の影を防ぎ光を集中させる効果のある、水の入ったフラスコを電球の前に置いて作業を進めます。浮世絵木版画では、墨版(墨線だけを彫った版木)を使い、色数だけ摺られた校合摺り(墨線だけを摺ったもの)に絵師が色差しをし、彫師は色差しに従って色数だけの版木を彫りあげます。

職人芸の極致。摺り

何十となく重ねられる馬連の摺りに耐え、木版画特有の深みのある作品を生み出すには生漉奉書(和紙)が欠かせません。ドーサ引きされた和紙を水で湿らし、薄い色から順番に摺り始めます。版木の右下にかぎ見当、手前に引きつけ見当が刻まれており、摺師は見当に合わせて紙を置き、次々と色を重ねて摺っていきます。熟練した摺師は何枚摺っても一度で置く位置が決まります。 何枚もの版木から、たくさんの色をぴたりと重ね合わせ、絵師の意図する作品を摺りあげるのは職人技の極致とも言えます。

ギャラリー